2014年3月17日月曜日

ロンドンの西。






















昔好きだった
ハイドパークの池の端にあるレストランに、
久しぶりに行ってみた。

味も、プレゼンテーションもすっかり落ちて、
観光客向けのものに変わってしまっていた。
昔はファルコンの白いホーローに、
揚げたてのフレンチフライがおいしかったのに。

それをつまみながら、パイントのサイダーを
短い夏によく飲んだ。


3年もあれば、いろんなことが変わるのに、
充分ということかもしれない。
3年あれば、なんだって変わる。



池に面してガラス張りになったそのお店から、
変わり易いロンドンのお天気を見ていた。

空がだんだんと雲を携えて、
空気に薄いもやがかかったかと思うと、
真っ暗になった空から降り出す雨。
風が強い。嵐みたい。

かと思うと、直に雨は止んで、
また雲が薄くなっていく。
太陽をきらきらと反射する、雨粒。


ぼんやりと読んでいた本を切り上げて、
そのお店を後にした。

外に出て、
歩き始めたその瞬間の、
空が。

空が、あまりにあの頃のままだったので。




あの頃。
ハイドパークからすぐの、小さな丘に住んでいた。

一度だけ、とても不機嫌な彼と
ハイドパークを散歩したことがあった。

もう話すことなどひとつもなかったはずの彼と、
なぜ公園まで出かけることになったのか、
今となっては思い出すことができない。


新宿御苑みたいに、
セントラルパークみたいに、
街のなかにあるハイドパークも
空がぽっかりと大きく見えて。

その時の私は、
その大きな空を見ながら、
とても困っていた。
そして、笑ってしまうくらい
心もとなかった。


ロンドンの西の空が、長い間
その心もとない気持ちを預かっていてくれたみたいだった。


空に忘れていった忘れ物を久しぶりに見つけたら、
意外に涙が止まらなかった。


どんなにがんばっても、
どんなに願っても、
どうしようもならないことが
人生にはあるんだなぁ、と
思い知っていたあの頃。


泣きながら公園を歩いていたら、
このまま夕飯のおつかいをして、
あの丘の家に帰れそうだった。



雨上がりの冷たくて気持ちのよい風が吹いていた。


ずっと許したかったのかもしれない。

あの頃の彼を。

あの頃の自分を。


思いの外、長い時間がかかってしまったけれど、
きっと少しずつ、忘れていける。
そんな気がした。


傾いた陽。
ロンドンの西。

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